■歯科を取り巻く社会的背景
国民の医療に対する権利意識の向上と医療ニーズの多様化が進むなか、医療現場におけるアメニティー(Amenity)の問題は医科、歯科を問わず共通した課題になっている、とりわけ歯科においては、特殊疾患を除けば、無痛治療は患者のだれもが持つ潜在的な願望であり、最近では、歯科医院を選ぶ基準のひとつになりつつある。
痛みを予防し、発生させないような治療はアメニティーの向上のための要件であり、歯科治療におけるこれからの課題と思もわれる。はじめて来院する患者のほとんどが痛みを主訴としており、痛みをコントロールすることは重要であるが、治療行為そのものが痛みを連想させるような従来の治療術式を、最先端技術を駆使した先進機器の応用によって少しでも解決できるならば、国民がもつ歯科医療に対する恐怖感を解消し、イメージアップにも役立つものと思われる。
また、医療がかかえている今日的課題のひとつに医療紛争問題があり、医療現場における医療者の関係に新たな局面を迎えている。最近の傾向として事故が無くても紛争になる場合があり、医療技術が高度化し、疾病構造の多様化によって医療行為そのものが医原性疾患(Iatrogenic Disease)を生み出しかねない状況になっていきている。わが国が多くの有病者をかかえつつも世界一の長寿が達成されていることは、健康と長寿がうらはらになっていることを示唆しており、歯科を受診する患者の多くが、何らかの基礎疾患を持つ有病者(Compromise Host)であることを改めて認識する必要がある。医者が聖域といわれた論拠として、患者を傷つける権利があったが、それはもはや過去のものになりつつある。このような社会的背景をふまえて、歯科医師は治療行為による医原性疾患や医療過誤を引き起こさないような診療システムの確立が求められている。