■レーザー治療について

某大手新聞に”虫歯を溶かして飛ばす”新治療””痛みもなく再発も防止””アレルギーや妊娠中でも安心”という見出しで、歯科治療用レーザーが数人の臨床家へのインタビューをまじえて紹介された。内容を要約すると「レーザー光線を使った新しい歯科治療が話題を呼んでいる、摂氏千度以上のレーザー光線で虫歯を蒸散
(溶かしてとばす)初期治療なら麻酔薬なしでも痛みがないうえ、虫歯の再発も防げるという。麻酔がだめなアレルギー体質の人や、歯をガリガリ削るのがいやで歯医者を敬遠してきた人も、これなら大丈夫かも」読者の興味を引くために少しセンセーショナルに書かれてはいるが、おおむね誤りはない内容になっている。
ちなみにここで表現されていることは、国民が抱いているわが国の歯科治療に対するイメージをマスコミが代弁したもので、歯科にかかるほど悪くなるRestorativeCycleを身をもって体験している患者の実感が籠もっているように思われる。国民の願望である痛みもなく再発もない歯科治療は歯科診療のアメニティーを向上させるのみならず、歯科の受療率を高める結果にもなるものと考える。約100年前にGB.Blackがアマルガム、シリケート充填やゴールドインレーを基本にした窩洞形成の原則を提唱して以来、現在でも大学では学生に窩洞形成の基本的な考え方として教育し、臨床実習でも金科玉条として守らせている。しかしながら近年、Restorative Dentistryの分野においては歯質接着性レジンの進歩にともない、治療術式も今までとは異なったGB.Blackの窩洞形成の原則にとらわれる必要がない、まったく新しい治療法がなされるようになってきた。また米国において、最先端技術を駆使して再生した噴射切削機器が1991年に発売されて以来3500台に達している事実は、このような背景とほとんどの症例が無麻酔下で処置 できることから由来しているもと思われる。私的な意見だが、Air Abrasive Technicは治療経験を積むにしたがって臨床の応用範囲も広がり、歯科治療の新しいシステムの構築につながるものとして、今後の歯科治療の流れを変えるものと思われる。今日、歯科治療に応用されている痛みを軽減または麻痺させる手段としては、イオン導入法、笑気吸入鎮静法、レーザーの応用、東洋医学によるツボ麻酔、注射麻酔、全身麻酔 等があるが鎮痛効果の点からは麻酔薬によるものが確実で最適と思う。しかし麻酔薬の薬理作用により患部の血行不順、自然治癒力の低下、二次疾患の原因や麻酔薬そのものによる生体への影響などを考えると無神経に使用するのは問題である。また、高齢社会の到来にともなって多くの他科疾患を有する患者も増加しており、全身管理の下で使用せざるをえないケース等を考えると、これからの開業医にとって麻酔薬による鎮静手段しかもちあわせないのは、治療戦略からも不利になると思われる。