当院のレーザー治療の変遷とレーザー光の光感受性物質を応用した 最新歯周治療法

― M.I.D.の立場から ―

特殊なレーザー光照射と光感受性物質(Photosensitisation)を組み合わせて行う光線力学療法(Photodynamic therapy 以下PDTと略)は、外科的手術に比べ浸襲が少なく、また、化学的療法に比べ組織に対する選択性が高く、生体への負担が少ないため、患者にやさしい治療法として期待されている。
光殺菌法(Photodynamic Disinfection)は、局所的に光線力学療法を適用することである。歯科においては最新の治療法であるが、PDTは既に医科では20年以上も前から用いられていた。癌、黄斑変性症に対するビスダイン治療法、種々の皮膚疾患、血漿の貯留に対する殺菌などの治療に用いられている。歯科では、最近になって高度な非熱タイオードレーザーと光感受性溶液を併用した病原体に特異的に抗菌性を示すペリオウェーブ(Periowave)システムが2009年2月にカナダの    Ondine Biophama社で開発された。
さて、日本における本格的なレーザーの歯科への応用は1990年10月にフランス製高出力レーザー、Laser Sat CO2が輸入されてからであり、20年になろうとしている。 この間、世界では科学知識の拡大と技術革新の進展によって、多種多様のレーザー機器と周辺材(剤)料が開発されてきた。それに伴い、歯科のレーザー治療も日々進化し、診断、予防からインプラント、審美歯科に至るまで適応範囲が大幅に増加した。 特に、最近米国で開発された疼痛緩和と治癒促進に大変有効なダイオードレーザーLumixⅡは、非熱性レーザー(Cold Laser 仮称)でまったく違和感がなく、特に烈しい急発の疼痛にも即効性が高く、これからの歯科の新しい分野として期待されるペインクリニックに大きく寄与する装置である。 当院におけるレーザーの活用は、25年になるが治療の効率性、即効性、確実性からは勿論、クライアント(Client)のクオリティー(QOL)を高めるために欠かせない存在になっている。痛い、怖いの歯科治療のイメージを払拭し、歯科に必要なアメニティー(Amenity)の側面からも、また、歯科医院経営の戦略的なスキルとしてもレーザーはこれから特に重要な役割を果たすものと確信している。 2000年にFDIが提唱したMinimal Intervention(以下MIと略)最小侵襲治療は齲蝕に重点を置いたものだが、その内容は補綴、歯周、歯内、矯正、口腔外科治療など、歯科全般に適用する普遍的な概念として認識されるべきである。しかし、これはあくまでも疾患に対する処置方法に過ぎない。これからの歯科に求められるのは疾患を発生させない、予防に重点を置いた診療であり、ここでもレーザーが果たすの役割は大きい。 齲蝕や歯周病が細菌による感染症ないし伝染性疾患であることを前提にすれば、疾病を起こす細菌をできるだけ早期に検知して、抗菌処置することが予防の最善の策である。 病態の進行を止め、疾病の発生を未然に防ぐ予防処置のシステムが、将来、歯科医院の日常的な臨床における、新しい治療基準のパラダイム(論理的枠組み)として普遍化されることが予防歯科の確立に繋がると思われる。 光殺菌法を中心に歯周疾患に限定し、歯科用光線力学療法のダイオードレーザーPeriowaveを応用した症例を2009年Quintessence別冊に紹介した。本機は、歯周病対策に大変有効な最先端技術による画期的な装置で、抗菌剤による全身的投与や局所抗菌療法(ドラックデリバリーシステム DDS)をしなくても歯周ポケット内細菌を除去できる優れものである。 一般に使用されている高出力レーザー(Hot Laser 仮称)は、熱で正常な組織までも破壊する恐れがあり、留意事項を良く理解した上で使用しなければならない。
Periowaveは、その特徴として人が感知できないほど微弱なエネルギーのレーザー非熱性の(Cold Laser )であり、臨床家にとっても患者さんにとっても、安心してPerio , Endo , Implantの疾患及び予防に使用できる本格的な歯科用a-PDTである。 医科におけるPDTは、腫瘍細胞や腫瘍組織内の新生血管の内皮細胞内に取り込まれた光線受性物質にレーザー光を照射されることにより、活性酸素が発生させ、この活性酸素に腫瘍細胞や組織が傷害を受けて壊死脱落し、腫瘍を消失させる治療である。可能な限り正常な組織を温存し、身体の機能や形態を損なわないことが目的であり、歯科におけるMIDの考えと共通する。
これまでのPDTは、光感受性物質の標的とする細菌や組織内有害物質に対する選択性が小さいことが課題であったが、Periowaveはこれからの諸問題を解決している。口腔感染症に対するPDTに関する基礎研究は、1989年からロンドン大学のMichael 教授らの研究グループによって50数編の論文が発表され、本法の臨床効果が実証されている。 歯周病は、細菌による感染症であることから、歯周辺の細菌叢とその生産物である炎症性伝達物質の生産をいかに防御し、歯周ポケット内細菌のコントロールが重要である。歯周病を引き起こす細菌を早期に検知し、抗菌処置できれば重症化への進行を止め、初期段階で病変を元に戻すことが可能になり、外科的介入を必用最小限(MDI)にできる。 Periowaveは、670nmの波長で励起する、220mWの低出力のダイオードレーザーである。その波長に合う光感受性物質を非熱ダイオードレーザーと併用することで、広い抗菌スペクトルを発揮し、スケーリングやルートプレーニングにより取り残した病原体を排除することを目的とする。歯周ポケット内にフォートセンシタイザーの0.01%メチレンブルー色素を含む中性リン酸緩衡液を浸透させる。(StepⅠ:Irrigate)この色素は、グラム陰性菌およびグラム陽性菌の細胞壁を構成するペプチドグライカン(糖タンパク)、糖脂質(内毒素)の脂質に特異的に結合する。次に、Periowaveのレーザー光を照射することにより色素が結合した歯周病原細菌は、破壊する。(StepⅡ:Illuminate)この色素は、生体の細胞には結合しないためレーザーの照射による侵襲は最小限に抑えられる。 Periowaveは、多くのバクテリアを不活性化しSRPだけの場合と違って治療後にバクテリアやトキシン(毒素)を残さない。フォートセンシタイザーを使って物理的に細菌を破壊するため、殺菌に抗生物質を使った治療方と違ってバクテリアの抵抗性を刺激することなく即座にグラム陰性菌を破壊する。 さらに、抗生物質を使用した場合に起こるアレルギーとか過敏症を発生せず、真菌による日和見感染を起こすこともない。その治癒するのに長期間必要としない。 Periowaveによる光殺菌法は、従来の機械的なSRPに置き換わる方法ではなく、補完される治療法である。光殺菌法による処置には、根面のデブライトメントが必要不可欠である。多くの症例から、両者を併用した治療により外科的治療や侵襲性のある処置の必要性が減少できる。また光殺菌法は、特に歯周組織再生療法のような歯周外科治療において、根分岐部のようなインスツルメントが届かない部位の殺菌にも適用することができる。
Periowaveの臨床特性は以下である
① 二重の抗菌作用
・ 歯周病原体の殺菌
・ ビルレンスファクターの不活化
② 非熱ダイオードレーザー
・ 歯周組織に対して安全かつ損傷を与えない
・ 波長に適した光感受性物質
③ 非抗菌物質
・ 耐性菌の出現がない
・ 抗菌剤による副作用がない
④ 迅速かつ簡便な操作性
・ 特異的な部位を処置できる(Site specitic)
・ 1歯あたり60秒という短い処置時間
⑤ 無痛処置
・ 治療による不快感がない
・ 患者に対する投薬の必要性がない

Periowaveシステムのメカニズム

光殺菌法の基礎となる原理は、歯周疾患を進行させる細菌を除去することである。まず、フォートセンシタイザーを歯周ポケット内に投与する。この色素は、グラム陰性菌とグラム陽性菌両者の細胞壁を構成する内毒素と脂質に結合する。両者の細菌の違いは、細胞壁のペプチドグリカンの厚さであり、グラム陰性菌の方がより迅速にメチレンブルーによって染色される。Periowave非熱ダイオードレーザーは光子を生産させ、フォートセンシタイザーの分子と高頻度で結合する。その光子は色素分子に衝突することにより、光線力学連鎖反応が開始される。色素を包囲する酸素分子は、電子を失うことでフリーラジカル(活性酸素)となる。この活性酸素は細菌細胞壁に対して毒性を有しており、細胞壁を分解することによりその細菌は破壊される。
Periowave は広い抗菌スペクトルを発揮するシステムであり、歯肉縁下細菌とそれら細菌の持つビルレンスファクターを破壊する。細菌性プロテアーゼ(タンパク分解酵素)、コラゲナーゼ(コラーゲン分解酵素)および内毒素は不活化される結果、炎症反応は消失し歯周組織の破壊は抑制される。
つまり、Periowave は、二重の抗菌作用を持つ。歯周病原性のグラム陰性細菌を殺菌するのみならず、これら細菌が有する内毒素(LPS)を不活化させる。抗菌剤を使わないので、耐性菌のリスクはない。

Periowaveの基盤をなす先端技術は以下である。
① フォートセンシタイザー(光感受性物質)を使って物理的に細菌を破壊する。

  1. Periowaveは広い抗菌スペクトルを持つシステムであり、歯肉縁下の細菌およびビルレンスファクター、特にプロテアーゼ、コラゲナーゼや内毒素(LPS)などを対象とする。 光感受性物質は、非熱ダイオドーレーザー光から生産される活性酸素により活性化され、細菌の細胞壁を破壊し細菌性毒素を不活化させる。
  • この光感受性物質は粘膜に接着する性質があり、歯周ポケットを覆うことで治療効率を最大限に向上させる。


Photodisinfection
(光殺菌療法)の適応例

  1. ①急発したケースのデブランドメント(debridement)との併用(抗菌薬の代わりとして使用)
    ② BOP(bleeding on probing)が存在するケースのデブライドメントとの併用
    ③ 再発しやすい歯周炎
    ④ メインテナンスが困難なケース
    ⑤ 外科的歯周組織再生療法における根面と根分岐部の殺菌
    ⑥ 垂直性骨欠損を有するⅡ度からⅢ度の根分岐部病変の殺菌
    ⑦歯内療法における感染根管内細菌の殺菌
  • ⑧インプラント周囲炎の治療とメインテナンス
  • ⑨歯周治療に伴う菌血症の防止


Periowave
を使用したClient(患者様)の声

・歯の固定が外れるといつも気になっていたが、気にならなくなった。
・抗生物質を飲まなくても良くなっている。

  • ・Periowaveをやる前は、奥歯に歯ブラシを当てると痛かったが治った。
  • ・不思議な感じがした。
  • ・歯ぐきが引き締まった。
  • ・唾液がネバネバした感じからサラサラした感じがする。
  • ・歯磨き後の歯のツルツル感が、長く続く気がする。
  • ・歯ぐきが引き締まったせいか、歯がしみる。
  • ・歯ぐきがピンク色になった。
  • ・いつも歯ぐきが熱っぽく感じたが、すっきりした。