ミニマルインターベンションに基づいた歯科診療

社会の変化は大きく、特に国民の権利意識の向上により医学の分野にも、新たな対応が求められています。
歯科治療においては、歯科医師不足の時代には多くの患者をどのように効率的に診るかが課題でありましたが、歯科医師過剰の今はしか医療の質が問われる時代になりました。Minimal Intervention Dentistryの考え方もこのような時代の流れによるもので、最小限の侵襲に基づいた治療と健康維持のための予防管理に重点を置いた歯科治療・保健が国民から求められています。
さて、歯科医療を取り巻く環境は社会的な変化による国民意識の多様化や疾病構造の変化によって新たな対応が必要になってきました。具体的には、


(1)高齢化社会に対応した歯科保健医療の必要性

人工の急速な高齢化に伴う高齢患者の増加は、診療所のおける治療のみならず、在宅訪問診療や施設での口腔ケアの需要を促進させている。H12年からは公的介護保険制度も施行され、重要度が増してきた。


(2)急性疾患から慢性疾患への疾病構造の変化

感染症を中心とした重度の急性疾患からゥ蝕や歯周病などの慢性疾患への疾病構造の変化は、日常の歯科医療の質的な変化をきたしている。


(3)生活習慣病としての歯科疾患

厚労省は健康日本21(健康増進法)の中で歯周疾患を生活習慣病に位置づけた。


(4)早期発見・即時処置からヘルスプロモーションの時代へ

健診と管理によって健康を守る姿勢から、健康教育と保健指導によって健康をつくるというパラダイムのシフトが求められる。


(5)Minimal Intervention Dentistry(FDI,2000)と予防管理

FDIの委員会が提唱している最小限の侵襲に基づいた歯科医療と健康維持のための予防管理に重点を置いた歯科保健が望まれる時代である。


などであります。必要最小限の侵襲による治療、ミニマルインターベーション(以下M.I.)の概念は2000年にDr.M.J.Tyas等4人の共著によるMinimal Intervention Dentistry-areview FDI Commission Progectの論文が、FDI学会誌に掲載し考え方が急激に世界に普及しましたが、日本では1979年総山孝雄の開発したゥ蝕検知液における総山テクニックにはじまると思われますので、歯科におけるM.I.は日本が先進国であります。  しかし、今日ではM.I.の概念は単なるゥ蝕処置に限定された考え方ではなく、Joost Roetersの概論Dynamic treatment conceptに代表される“歯や歯周組織は年齢と共に変化していくので、健全歯質を削除するような侵襲の大きい治療は最後の手法にすべきである”との概念は、歯周治療、補綴治療、歯内療法、矯正治療など歯科全般に適用するものであり、時間軸に沿った歯科治療の概念が伺えます。  個人的な考えではありますが、M.I.の探求の目的は歯科治療のクオリティーと予防管理を求めるところにあると思います。歯内療法で言えば、歯髄まで達したゥ蝕でも極力歯髄保存に努力すること、歯髄が失われた場合でも根管拡大・形成を最小限にとどめ、歯質を残すように努力することにあります。

東邦歯科診療所 院長 吉田直人